- 高大連携事務局
AIが当たり前になる未来
更新日:2022年12月14日
<プロフィール>
小塩 篤史
特任教授/EdTech研究センター センター長/データサイエンス教育センター 副センター長
兵庫県出身。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程在籍時に起業。専門分野はデータサイエンス・人工知能(機械学習・集合知)。特に医療や教育など人間と密接な領域での情報システムに関する研究や教育、社会実装を行っている。現在は、社会貢献を目指す人工知能や新規事業開発を行う株式会社IF 代表取締役、株式会社Four H代表取締役、株式会社HYPER CUBE最高情報責任者を務める。休日は家族でキャンプをするのが楽しみ。焚火が好き。
【目次】
AIが当たり前のように社会に入ってくる
AIができること
AIは本当に人を幸せにするのか
人を幸せにするAIを考える

AIが当たり前のように社会に入ってくる
少し前まではSFや漫画の世界の話だったAI。それが今、社会に急速に広がっています。AIが当たり前になる未来とは?千葉県立柏の葉高校情報理数科の1年生と2年生が、小塩篤史先生と一緒に考えました。
「ドラえもんのようなAIができるのはまだまだ先の話ですが、私たちの生活にはすでにAIがたくさん入ってきています」と小塩先生。たとえば、多くの人が使っているスマートフォンをはじめ、Googleの検索エンジン、TikTokやYouTubeでおすすめの動画を表示するリコメンド機能にもAIが使われ、Amazonで買い物をして商品が家に届くまでの間にも、その裏側では約1億2000万人分の物流を支えるために様々なAIがはたらいているというように、社会のいたるところでAIの活用が広がり、私たちが日常的にAIを使っていることを小塩先生は説明します。
「みなさんが社会に出て仕事をする頃には、AIはもっと増えているでしょう。みなさんの中には将来、自分でAIをつくる人もいるかもしれません。AIが当たり前になる時代、AIをつくる人も、使う人も、AIとはどういうものなのかをよく理解し、AIとの付き合い方を考えていく必要があります」(小塩先生)

AIができること
そもそも、なぜ今、AIが社会にどんどん入ってきているのでしょうか?小塩先生はAIの歴史から解説していきます。人間のような知能を持つ機械「AI」の概念は1950年代に生まれ、その後、世界的に有名な研究者が研究開発に取り組んできましたが、実用にはなかなか至りませんでした。社会で活用するには精度が低く、手間や時間、コストも膨大にかかったためです。
ブレークスルーとなったのは、機械学習のディープラーニングという技術です。2012年、世界的な画像認識コンテストにおいて、トロント大学が開発したディープラーニングが圧倒的な正答率で優勝。これ以降、GPUを搭載した高性能コンピュータの登場やビッグデータ社会の到来などを背景に、ディープラーニングが飛躍的な進化を遂げます。高性能なAIが低コストで運用できるようになり、AIは誰でも使えるものとなりました。このことを小塩先生は「機械学習の民主化」と表現します。
では、ディープラーニングの何がブレークスルーだったのでしょうか?小塩先生は、旧来型の機械学習と新しいアルゴリズムを持つディープラーニングの違いを説明します。
「たとえば犬と猫を分類するAIをつくる場合、旧来の機械学習は、人間が分類のルールを決める必要がありました。つまり、猫の顔はまるい、耳が立っている、というように、人間が全部考えてインプットしていくのです。例外もいちいちルールにしなければならないので、ルールはどんどん複雑になっていきます。想像するだけでも大変ですね。一方、ディープラーニングは、そんな面倒なことは一切する必要がありません。犬と猫のデータを大量に集めて機械に入力すれば、機械が犬と猫の特徴を数値化した特徴量を自動的に抽出し、判断してくれます。それまでの機械学習に比べたら、格段に楽になりました」(小塩先生)
今のAIにできることは「学習、知覚・認知、推論」です。中でも得意なのは知覚認知。文章や音声、画像などのデータの意味を理解することができます。その技術が実際どのように活用されているのか、小塩先生は例を紹介していきます。
ペット保険会社が開発したのは、ペットの顔写真から病気を予測するシステム。病気のペットと健康なペットの大量なデータから、病気のペットにどんな特徴があるかを機械が学習し、病気のペットを判断してくれます。少しこわいものでは「カンニング自動検知AI」というのもあります。AIの画像認識によって、受験者の視線や姿勢からスマートフォンを見るなどの不正行為を検知するシステムです。
こうしてみると、AIがさまざまなことを可能にしてくれることがわかります。AIの市場は今も成長し続けており、2030年にはその経済規模は1500兆円にまで膨らむと見込まれ、政府はAIやビッグデータの活用を推進する計画「ソサエティ5.0」を提唱するなど、AIの活用は今後さらに進むと小塩先生は話します。

AIは本当に人を幸せにするのか?
ここで、小塩先生は生徒に投げかけます。
「AIは便利です。でも、本当に人を幸せにするのでしょうか?たとえば、YouTubeやAmazonのリコメンドエンジンに従い続けたらどうなるでしょう?」
たとえばAmazonでは、本を買うと、自分が過去に購入した本や検索した本に関連した本がおすすめされます。一見、便利な機能のようですが、もし、すすめられるものだけを読んでいたら、新しい世界は広がらないでしょう。同じようにYouTubeの動画も、リコメンドに従っているとずっと同じような動画を見続けることになり、知的好奇心がくすぐられることがないのでは?と小塩先生は疑問を呈します。
「一方、リアルな本屋さんに行ってお店をぶらついてみると、旅行の本や漫画など、それまで興味の対象外だった本が目について、そこから新しい世界が広がるということがたくさんあります」と小塩先生。
小塩先生はさらに、ある企業が開発したAIを使った空調管理システムを例にあげます。エアコンとカメラ、AIセンサーを使い、眠気を感じている人を検知し、覚醒させるために涼しくするというものです。仕事の生産効率を上げるのが目的ですが、人間を強制的に働かせるAIにもなりかねないと小塩先生は指摘します。
「AIは、使い方によっては怖いものにもなります。だからこそ、社会で使うときには、それが本当に人を幸せにするものなのかどうか、しっかりと考えることが大事です」(小塩先生)

ひとを幸せにするAIを考える
経営者、研究者、教育者として、AI分野で活動する小塩先生が常に意識していること。それは「人を幸せにするAIをつくること」だと言います。
「たとえば今、開発しているのは、楽しみながら健康寿命を伸ばすためのAIシステムです。日本は世界一の長寿国ですが、実は自立した日常生活を送り、健康に過ごすことができる健康寿命は平均寿命よりも短く、介護を要する期間が約10年間あります。私たちが目指すのは、その期間を少しでも短くすること。それも健康のために何かを我慢するのではなく、遊びが予防になる、そんなAIを目指しています」(小塩先生)
小塩先生はそのシステムについて、AIが高齢者との対話を通して心身状態を把握し、その人の状態に応じた提案や声がけをすること。それによって適切な行動を促し、健康状態の改善につなげることなどを説明します。
「ともに歩んで寄り添い、気づきを与えてくれるお友だち。そんなドラえもんみたいなAIをつくり、一般家庭や介護施設に普及していきたいと頑張っているところです」
そして人を幸せにするAIをつくるためには、先端技術やロボティクスの知識だけでなく、共感力、チームワーク、道徳倫理を備える必要があると小塩先生は伝えます。
「AIをつくるとき、使うとき、それが社会にどんな影響を及ぼすのか。人を幸せにするものなのか。みなさんも常に考え続けてほしいと思います」(小塩先生)
小塩先生の話に最後まで真剣に耳を傾けていた高校生たち。「AIが当たり前になる未来」を、「幸せな未来」にするためのヒントをつかんだようです。