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  • 高大連携事務局

高校生と考える、ダイバーシティ。これからの社会に多様性が必要な理由

更新日:2022年12月14日

<プロフィール>

内藤 知加恵

国際学部 学科グローバルビジネス学科


早稲田大学大学院国際情報通信研究科修士課程。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程。博士(商学)。専門分野は「ダイバーシティ・マネジメント」。5歳の娘の育児に奮闘中。



【目次】

  1. ダイバーシティとは何か?

  2. 多様な人が集まることで生まれるメリットとは?

  3. ダイバーシティのマイナス面を考える

  4. 多様な人たちが活躍できるために必要なこと






ダイバーシティとは何か?


「ダイバーシティ(多様性)」という言葉を聞いたことがありますか?日本語に直訳すると“多様性”です。国、性別、年齢、価値観・・・皆さんのまわりにある「ダイバーシティ」について、東京都立江北高等学校の2年生が国際学部グローバルビジネス学科の内藤知加恵先生と一緒に考えました。

今年5月、ある飲食大手企業の会社説明会に申し込んだ女子学生が、外国籍を理由に参加を断られるという出来事がありました。学生は日本国籍ですが、父親が外国籍のため、名字だけで判断されてしまったようです。ショックを受けた学生がTwitterに投稿したところ大きな反響を呼び、結果的に企業の社長が謝罪する事態となりました。

内藤先生は、この出来事にはダイバーシティ(多様性)の問題が含まれていると説明します。そして、なぜ問題なのか、もし自分であればどう感じるか、授業に参加した高校生に投げかけます。

「その会社で働けない理由が分からないから嫌だ」「名字のせいで志望していた会社で働きたいという夢が絶たれてしまう」などさまざまな意見が生徒からあがります。

この出来事は、企業が従業員を採用する際に、外国人であることを理由に差別しているのではないかという点で大きな問題を含んでいます。同時に、会社に対して批判が起こったことは、多様性への意識の高まりを示しているということも内藤先生は説明します。

実は、私たちの身の回りには多様性があふれています。内藤先生は、身近な例をあげて説明します。

例えばファミリーレストランでは、平日の昼間には主婦や高齢者の方が働く姿をよく目にしますが、夜の時間帯や休日になると若い学生が増えてきます。これは世代の多様性です。また、コンビニでは、肌や髪の色が違う店員さんを見かけることが多くなりました。麗澤大学でもさまざまな国の留学生が学んでいます。これらは、人種の多様性です。

「人種・性別・年齢など、見た目で認識できるものを“表層の多様性”と呼びます。一方で、信仰している宗教や性的嗜好、障がいの有無など、外見だけでは分からないのが“深層の多様性”です。ダイバーシティについて考えるときには、表層の多様性だけでなく、深層の多様性についても知る必要があります」(内藤先生)






多様な人が集まることで生まれるメリットとは?


社会の多様性が進むと、どのような変化が起こるのでしょうか? 生徒からは、「いろいろな考えが集まる」という意見が出ました。内藤先生もその意見に同意します

身近な例として、世代の多様性について考えてみましょう。

いまの50代、60代の人は、身を削って、懸命に働くことが普通だと考える社会環境で生活してきました。残業も苦にならないし、家庭よりも会社を優先する世代という印象を持っている人も少なくありません。一方で、20代から30代の若い世代は、会社よりも家族が大事だという人が増えています。保育園の送り迎えをするお父さんを見かけることも多くなりました。

このように、世代が違うだけでも価値観は大きく異なります。人種や性別などについても同様で、価値観が違う人たちが集まるとイノベーションが起きやすくなり、いろいろな問題を解決する能力も上がることが期待できます。






経営にダイバーシティが求められる理由


では、多様性を経営学の視点から考えてみるとどうなるのでしょうか?

いま、経営課題としてダイバーシティを取り上げる企業が増えています。理由のひとつが、企業のグローバル化です。オンラインの発達で世界中の人が国境を越えてビジネスに参加し、顧客も多様化するなかでは、多様な人に向けたビジネスを提供する必要に迫られると内藤先生は説明します。

「例えば私たちがよく利用しているAmazonはアメリカの会社ですが、日本に子会社を作ってビジネスを展開していて、多様な国籍の人たちが働いています。麗澤大学にも外国籍の先生は大勢いますし、世界中のいろいろな国の人たちが一緒に働く時代になってきています」(内藤先生)

さらに日本の大きな課題としては、日本の人口が年々減っているという点も考えなければいけません。内藤先生は「若い労働力人口が減っていくと社会はどうなる?」と問いかけます。生徒たちは自分たちの世代の問題として、積極的に発言します。

「生産力が落ちる」「給料が下がる」「将来もらえる年金が減る」「物価が高くなる」。

すべて正解といえるでしょう。将来を担う若い人たちにとってどれも深刻な問題です。

「経営にダイバーシティが求められる背景にあるのは、日本の労働力不足です。これからの時代を生きていくみんなのような若い世代は、いろいろな国籍、バックグラウンドを持った人たちと一緒に働いていくことになります」(内藤先生)

外国人の人たちと一緒に働くことがいずれ当たり前になる。そんな思いを持って、生徒たちは内藤先生の説明に真剣に耳を傾けます。






ダイバーシティのマイナス面を考える


ダイバーシティは決して良いことばかりではありません。多様な人たちが集まると集団内に「サブグループ」というものが生まれて、グループ間に対立が起きる恐れもあると内藤先生は説明します。



「例えばクラスの中でも、気が合う人や、趣味が同じ人で自然とグループを作るよね。それは同じバックグラウンドを持っている人同士だと、コミュニケーションが楽だからです。面白いことに、私たちは相手が自分と同じグループか、あるいは違うグループかを無意識のうちに判断しています。相手と会った瞬間に『日本人だ』『同性だ』『同世代だ』というように、自動的に頭の中で処理しているんです」(内藤先生)

人は性別や年齢、職業などのカテゴリーに対して、アイデンティティ(自己同一性)を持ちます。すると、人は自分たちのグループをひいきにしてしまう傾向があります。女性グループは「女子は丁寧だけど、男子は雑だ」、一方で男性グループは「男子は口が堅いけど、女子はうるさい」などと、それぞれ自分のグループを高めることで、自分の自尊感情を高めることになるのです。さらに、相手のグループを低く見ようとすると偏見を生み、グループ間の対立につながってしまいます。

こうしてダイバーシティがグループの分断を招き、対立を深めて、コミュニケーション不全に陥ってしまうことがあります。ダイバーシティが「諸刃の剣(もろはのつるぎ)」といわれるゆえんです。



多様な人たちが活躍できるために必要なこと


会社の中にサブグループがあり、グループ間で常に対立が起きているような場所では誰も働きたいと思わないでしょう。

生徒たちもそのような会社に対して、「能力のある人はそういう会社を選ばない」「人がどんどん辞めていく」「会社の評判が下がるので商品が売れなくなる」と率直に答えます。

多様な人たちを集めるだけでは対立が生まれ、組織がうまく機能しないということが分かります。では、多様な人たちが組織で活躍できるためには何が必要なのでしょうか? 内藤先生はダイバーシティが進む社会で大切な点を2つ挙げます。

「ひとつは、“アンコンシャスバイアス”に気づくこと。例えば、『女性はおしゃべりだ』と決めつけることを“バイアス”と呼びます。性別、人種、世代に限らず、いろいろな属性、カテゴリーに対する偏った見方がバイアスです。自分自身や周囲が無意識の偏見、つまりアンコンシャスバイアスをしていないか気づき、相手を尊重することが大切です。もうひとつは、組織が“インクルージョン”を保つこと。表面的に『みんな違ってもいい』と言うだけでは何も変わりません。組織の中で『自分は受け入れられている』と感じられているか。加えて、多様な人たちが自分らしさを発揮できているか。この2つが高いことをインクルージョンといい、会社は意識してこの状態に持っていくことが求められます。会社のホームページに『外国籍の方を積極的に受け入れます』と載せるだけではダメなのです。

多様な人たちが活躍するためには、一人ひとりがアンコンシャスバイアスに気づき、組織がインクルージョンの状態を保つことが必要になります。さまざまなバックグラウンドを持った人たちを会社の中でどのように活かしていくかを考えるのが、ダイバーシティ・マネジメントです」

最近、よく耳にする「ダイバーシティ」という言葉。今回、授業に参加した高校生たちは、内藤先生の授業をきっかけに、その言葉が持つ意味を考えはじめたようでした。

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