- 高大連携事務局
経済学で環境問題を解決する。
<プロフィール>
森田 龍二 准教授
経済学部 経済学科
早稲田大学大学院経済学研究科修士課程 修了
法政大学経済学部経済学科 卒業
早稲田大学大学院修了後、一般企業での就業を経て麗澤大学の非常勤講師に着任、
現在は、経済学部准教授として経済学部を教えている。
座右の銘は「雨垂れ石を穿つ(うがつ)」頑張り続けることが成長に繋がるということ
をモットーに、日々の講義、研究に奮闘し、休日はカフェで読書などをすることでリフレッシュしている。
<目次>
人生にも役立つゲーム理論
環境基準を守る・守らない。どちらが得?
最適な反応が最悪の結果に?
ルールを設けてゲームチェンジする

人生にも役立つ「ゲーム理論」
地球温暖化、大気汚染、海洋汚染、土壌汚染、森林破壊――世界は深刻な環境問題に直面しています。これを経済学という学問で解決できないか?つくば国際大学高校の2年生が、経済学部経済学科の森田先生と一緒に考えてみました。
今回使うのは、経済学で必須のツール「ゲーム理論」。「といっても、テレビゲームやカードゲームのことではありませんよ」と森田先生。経済学における「ゲーム」とは相互依存の象徴であり、お互いが影響を及ぼし合っている状況をさします。
「たとえば東京池袋では、大手家電量販店のビックカメラとヤマダ電機が熾烈な競争を繰り広げ、相手よりも1円でも高ければ価格を下げるというように、互いに影響を及ぼし合っています。この状況を経済学ではゲームというのです。そしてゲーム理論とは、ゲームにある状況において、人々あるいは組織がどのように意思決定すべきかを導き出す、意思決定のための学問です」(森田先生)
私たちの人生は意思決定の連続です。ときには重要な意思決定を下さなければならない場面もあります。そんなとき、どのように意思決定をすべきかを教えてくれるのがゲーム理論であり、ゲーム理論は人間関係、ビジネス、国際問題など、さまざまな問題の解決に活かせると森田先生はいいます。そんなゲーム理論を使って、次はいよいよ、環境問題の解決に挑戦してみましょう。

環境基準を守る・守らない。どちらが得?
現実世界では190カ国以上の多様な国々が存在するので状況は複雑ですが、授業ではシンプルに「A国とB国の2国間で環境問題が発生し、環境を良くするために、両国が守るべき環境基準を設定した」と考えます。物事を単純化することで問題の本質が明確になり、解決策を見つけやすくなると森田先生はいいます。
A国とB国に与えられた選択肢は、環境基準を守るか、守らないかの2つです。守れば環境は良くなりますが、環境に配慮するには設備投資が必要となり、巨額のコストが発生します。そこで「コストをかけたくないから守らない」という選択肢もあり得ると森田先生。
では具体的に、どのような状況が考えられるでしょうか?パターンは3つあり、1つは、A国B国ともに環境基準に協力的な立場を選択するパターン。2つ目は、一方が協力的、もう一方は非協力的。3つ目は、A国B国ともに非協力的な立場を選択するパターンです。
「ここで、A国・B国それぞれの『利得』を考えてみます。利得とは儲け、利益というようなイメージで捉えてください。環境が良くなるのはプラス、コストがかかるのはマイナスです」(森田先生)
両国ともに協力的な立場を選択する1つ目のパターンの場合、コストはかかりますが、環境は良くなり、利得は両国ともにプラス3点です。2つ目のパターン、一方だけが環境基準を守る場合、守ったほうはコストがかかり、しかも相手が基準を守らないので、環境はそれほど良くなりません。守ったほうの利得はマイナス8点。守らなかったほうはコストがかからず、環境はやや改善するのでプラス5点。3つ目、A国B国ともに非協力的な立場を選択した場合、コストはかかりませんが、環境は最悪になり、両国ともにマイナス3点となります。
「ここまで見てきたように、環境基準を守るか、守らないか、どちらを選択するのが得になるかは相手の出方によって変わります。ゲーム理論では、このような状況を『利得表』という表であらわします」(森田先生)
ここで森田先生は、A国B国それぞれの選択と点数の組み合わせが記された1枚の表を示します。
「ゲーム理論では、相手の反応に対し、自分の利得が最大になる反応をとることを『最適反応戦略』といいます。利得表を使うと、自分がどう反応すべきなのか、選択肢を絞りこむことができます」(森田先生)
最適な反応が最悪の結果に?
ここからは利得表を使って、相手国が環境基準に協力的・非協力的な場合、自国は協力的・非協力的のどちらを選択するのが最適かを考えていきましょう。まずはA国からです。B国が「協力的」な反応をした場合、「協力的」な反応を選択すると、A国の利得は3点。「非協力的」な反応を選択すれば5点です。
「これがお年玉だとしたら、3万円もらうよりも5万円もらうほうがいいですよね。つまり、A国は『非協力』を選択するのが良いということになります」(森田先生)
次に、B国が「非協力的」な反応をした場合、「協力的」な反応を選択すると、A国の利得はマイナス8点。「非協力的」な反応を選択すればマイナス3点です。どちらも赤字ですが、マイナス3点のほうが損を抑えることができるため、「非協力」を選んだほうが良いことになります。
つまり、B国が協力的・非協力的どちらの反応でも、A国は「非協力」を選んだほうが得をします。B国にとっても同じことがいえるので、A国B国ともに環境基準を守らないという結果になりました。
「両国が自分にとって最適な反応を選んだ、つまり自国の利益を追い求めた結果、環境基準は守られず、環境は悪化してしまう。これは望ましい状態ではありませんね。このような状況を『囚人のジレンマ』『社会的ジレンマ』といいます。お互いに利己的に行動した結果、かえって状況が悪化してしまう現象のことです」(森田先生)
では一体、A国もB国も環境基準を守るようにするためにはどうすればいいのでしょうか?良い方法はあるのでしょうか?

ルールを設けてゲームチェンジする
「解決するには、ゲームを変えればいい。それには、ルールをつくることです」と森田先生。つまり、規制を設けることによって、非協力的な行為をしたほうが損をする状況をつくればいいのです。そこで重要なのが政治の力であり、良い世の中をつくるためには、きちんとしたルールを設ける政治が不可欠だと森田先生は言います。では具体的にはどうすればいいのでしょうか?
「環境基準に非協力的な行為に対する罰金を設定し、監視団を派遣して監視するというルールを設けるのです。さあ、ここでゲームが変わりましたよ。利得表がどう変わるのか見てみましょう」(森田先生)
A国B国ともに協力的・非協力的を選んだ場合、点数は変わりません。お互いに「協力的」なら、どちらの国も3点。お互い「非協力的」なら、お互いさまなので罰金は発生せず、どちらもマイナス3点です。
「変わるのは罰金が発生するケース、どちらか一方が『非協力的』だった場合です。A国が『非協力的』でB国が『協力的』の場合を見てみましょう」(森田先生)
罰金が設定される前は、A国がプラス5点、B国がマイナス8点でしたが、今度はA国が罰金10を払わなければならないため、A国はマイナス5点に。B国は罰金をもらえるのでプラス2点になります。反対にB国が「非協力」だった場合、B国がマイナス5点、A国がプラス2点です。つまり、相手がどう出ても「協力的」を選んだほうが得をすることになります。規制によって、環境に配慮した行動がとられるようになったのです。
「最も望ましいのは、規制がなくても、環境問題に配慮する道徳心を持つことです。しかし、目先の利益で動いてしまうのが人間であることもまた、現実です。だからこそ、そうしないための仕組みづくりが重要です。その仕組みづくりに一役買うのがゲーム理論です。みなさんも今後、ぜひ活用してみてください」(森田先生)
経済学の重要な理論であり、社会のさまざまな場面で応用されているゲーム理論。難しい数式を一つも使わない森田先生の授業を通して、高校生はそのエッセンスにふれ、自分ならどう活かせるか?もう考え始めたようです。
