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お金の進化。自然貨幣から仮想通貨、デジタル通貨へ

更新日:2022年12月14日

<プロフィール>

中島 真志

経済学部 経済学科


一橋大学卒業、博士(経済学)(埼玉大学)

教育奨励賞の受賞歴有

日本銀行で25年間務めたのち、麗澤大学で「金融論」や「企業金融論」を教えています。

”Think Globally, Act Locally”(グローバルに考えて、ローカルに行動せよ)をモットーに、大局と小局双方のバランスをとることと、「今、ここ」に集中することを心掛けています。



<目次>

  1. お金のない世界

  2. お金の登場

  3. 夢の通貨?ビットコイン

  4. 近未来の通貨、デジタル通貨





お金のない世界


みなさんは生まれたときから「銀行券」と「コイン」を使い、そのことに何の疑問も抱いていないでしょう。ところが、過去を遡ってみればそうではない時代も長く、実は、紙やコインのお金を使い始めたのは最近のことです。お金はどう進化してきて、今後どうなっていくのでしょうか?お金の進化と未来について、経済学部の中島先生と麗澤高校の生徒が考えました。


まずは「お金のない世界」を考えてみましょう。「お金なしで、どう取引を行えばいいでしょうか?」中島先生が投げかけると、生徒から「物々交換!」と元気な声があがり、「よくできました」と中島先生。


お金がない時代は、自分が持っているものを人が持っているものと交換していました。これは、お互いの欲求が一致すれば取引が成立しますが、そうでなければ成立しません。実は、物々交換が成立するには2つの偶然が重なる必要があると中島先生。1つは、自分が欲しいものを相手が持っていること。2つ目は、相手が欲しいものを、自分が持っていることで、これを「double confidence of wants」と言います。


中島先生は「欲求が一致しないケース」として、お米を持っていてお肉が欲しいAさんが、肉を持っていて魚が欲しいBさんと物々交換でお肉を得るためのステップを説明。AさんがBさんから魚を得るには、何回も物々交換を経なければならないことがわかります。


「このように物々交換は非常に手間がかかるんですね。経済学の用語では『取引コスト』が高いと言います」(中島先生)


そこで、支払い手段として、誰もが受け取ってくれる商品を用いるようになりました。いよいよ、貨幣の登場です。





お金の登場


最初に貨幣として使われたのは、自然界にあるものです。これを「自然貨幣」といいます。中島先生は世界最大の貨幣「ヤップ島のフェイ」を紹介。動かすこともできない巨大な岩です。一方、古代中国で使われていたのは貝の貨幣「貝貨」。お金にまつわる漢字に“貝”がつくものが多いのは、そのためです。


やがて農業が盛んになり、余剰が生まれるようになると、布や家畜、穀物など、そのものに価値があるものを仲立ちとして使うになりました。「商品貨幣」です。自然貨幣からは進化しましたが、持ち運びが不便、分けられないという問題がありました。


そのうちに金や銀、銅などの金属が見つかり、これらを「重さで量って」貨幣として使うように。私たちも使う「金属貨幣」の登場です。金属は持ち運びが便利で耐久性にも優れていますが、使うたびに重さを量るのが面倒という問題がありました。


そこで、金属を加工する新技術によってつくられるようになったのが「鋳造貨幣」です。中島先生は、紀元前670年頃に使われていた世界最古のコイン「エレクトロン貨」、日本最古の流通通貨「和同開珎」を紹介します。


「ただ、これも重くて嵩張りますね。そこでいよいよ、紙幣の登場です。お札なら軽くて持ち運びに便利です。紙幣をつくるために必要なのが、紙の技術と印刷技術。中国三大発明の一つである印刷技術が紙幣のために使われました」(中島先生)


世界最古の紙幣は、中国宋の時代に登場した「交子」。紀元1020年頃に発行が始まりました。初期の紙幣は、一定量の金との交換を保証する紙幣「兌換紙幣」として使われ、のちに兌換の必要がない「不換紙幣」が登場。別名を信用貨幣といいます。


「これは1万円である、という社会的なコンセンサスの上に成り立っているのであって、お札そのものに価値があるわけではないんですね。ちなみに、1万円札の製造原価は1枚20円くらいです」(中島先生)


ここまで、私たちが使っている紙幣やコインに進化するまでを見てきました。ここからは未来の通貨の話。まずは「仮想通貨」について見ていきましょう。





夢の通貨?ビットコイン


みなさんは「ビットコイン」と聞いたことがあるでしょうか?2008年にサトシ・ナカモトと名乗る人物がインターネットで発表した論文がきっかけとなり、2009年1月に初のコインが発行されました。コインといっても実態はなく、インターネットを通じて価値がやりとりされ、高度な暗号技術ブロックチェーンによって複製や二重使用を防止する仕組みの「暗号通貨」です。


「ビットコインは偽造ができない、世界中に送金することもできる夢の通貨と考えられ、未来の通貨になると期待されました。ところが、実は多くの問題があることがわかります」(中島先生)


中島先生はビットコインの問題点について、取引所での大量流出など安全性への懸念や、高い匿名性があることから犯罪やマネーロンダリングに利用されること、ボラティリティが高く支払い手段に使えないこと、マイニングに大量の電力を消費することなどを説明します。


「結果的に、ビットコインは通貨になり損ねました。値上がりを期待して買う人が大部分となり、そのため最近は『暗号資産』とよばれ、通貨ではなく“資産”として扱われるようになったのです」(中島先生)





近未来の通貨、デジタル通貨


このビットコインのブロックチェーン技術を使って、今まさに中央銀行が発行しようとしているのがデジタルのお金、中央銀行デジタル通貨「CBDC」です。私たちが今使っている紙幣が、デジタルのお金になるのです。


「みなさんは5年10年先の話と思うかもしれませんが、実はすでに秒読み段階になっているんですよ」(中島先生)


なぜ、中央銀行がデジタル通貨を発行するのか?中島先生はその背景として、さまざまな取引がデジタル化し、法定通貨のデジタル化に対するニーズが高まっていることや、技術の進歩によって偽造や二重使用を防止できるようになったことなどを挙げます。


さらに、CBDCとキャッシュレス決済の違いについて「大きな違いは、CBDCは中央銀行が発行するセントラルマネーであること」だと中島先生は強調。これまで、お金が自然物から金属、紙へと変化してきたように、次はデジタルデータがお金の機能を果たすようになると言います。


次に中島先生は、CBDCに向けた世界の動きを紹介。カンボジアやバハマなどがすでにパイロットテストに入るなか、最も注目されているのが中国の動向。中国は2020年5月からパイロットテストに入り、実験段階ですでに日本の人口を上回る2億6000万人がデジタル人民元のウォレットを所有しているのです。世界最大の人口、経済規模世界2位の中国がデジタル通貨を導入するとなれば、大きなインパクトがあるだろうと中島先生は指摘します。


一方、日本でも日本銀行が「デジタル通貨グループ」を新設。パイロットテスト目前の段階にあり、今後4〜6年で実現するのではないかと中島先生は予測します。


CBDCについては大きく2つの捉え方があると中島先生は言います。1つは、電子マネーやQRコード決済と並ぶ、新しいキャッシュレス手段であるとする捉え方。もう1つは、新しいお金の形だとする見方です。


「私は、後者が正しい見方ではないかと考えています。CBDCもお金の進化と捉えるとわかりやすいでしょう」(中島先生)


これまで見てきたように、貨幣はその時々に利用可能な素材と最先端の技術を使ってつくられてきました。最先端の技術を使うのは、偽造を防ぐためです。今の最新技術はデジタル技術であり、中央銀行がブロックチェーン技術を使って貨幣をつくるのは歴史の必然だと中島先生。


「人類は中国宋代の「交子」から1000年にもわたり、紙のお金を使い続けてきました。つまり貨幣の転換は、長い歴史の中でもそう頻繁に起きることではないんですね。高校生のみなさんはラッキーなことに、1000年に一度の貨幣の転換、デジタル通貨誕生という歴史的瞬間を目撃できるかもしれません」(中島先生)


そのとき、世界はどう変わるのでしょうか?高校生は、自分たちの生活と切り離すことのできない「お金」という存在を見直すとともに、未来への期待を膨らませて、授業は終わりました。


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